クマの戦い



子グマが小走りに上流へと向かって行った。
私のいた場所からは、母グマの様子をうかがうことができなかったが、 
何だかイヤな雰囲気だった。

私は撮影をやめ、ムービーを撮っていたMoeの元へ向かい、声をかけた。
『ヤバイって…』
そういうと、私は車へと向かった。

その瞬間、ものすごい唸り声が聞こえてきた。
振り返ると、水しぶきを上げて走るクマが見えた。
母グマなのか、別のクマなのかは一瞬では判断が付かなかったが、 
周りにいた人たちが、それぞれ車などに向かって走っている様子が目に入り、
私も車に向かって走り出した。 

その時、私の頭の中にあったのは、『そういえば、車のカギは開いているのか?』ということだった。
車までは短い距離だったが、カギが開いていなかったら…
などといろいろな考えが頭の中を巡った。
車に戻った私は、カギが開いていたことに安堵することもなく、
身体を車に入れ、後ろ手にドアを閉めようとした。

ところが、ドアが閉まらない。
私は、そこで改めて振り返った。
すると、そこには引きつった表情の女性が立っていて、ドアが閉まるのを阻止していた。
『お願い!乗せて!』
残念ながら、私たちのレンタカーは2ドアだったので、
切羽詰まった女性は私が乗り込んだドアから一緒に乗ろうとしていたのだ。

私は、シフトレバーの方へ身体を寄せながら、
『入って!』と、その女性を車の中へ…。
それと同時ぐらいだろうか…。
Moeも反対側のドアから車に乗り込んできた。

窓からは、大きな2つの固まりが、唸り声を上げてぶつかり合い、
離れては、走ってきてぶつかって…そんなことを繰り返していた。

落ち着いた私たちは、あまりに狭く窮屈だったので、クマの様子をうかがいながら、
一旦車を降り、車の陰に隠れながらその様子をうかがっていた。

好奇心旺盛なカメラマン達は、車でクマのすぐ横まで行き、写真を撮ったりしていた。
クマ同士の戦いだから、人間は襲わないだろう…と近付いていったのだろうけれど、
ものすごい勢いで移動し、ぶつかり合っているのだ。
巻き添え食ったりしたら…と思うと、見ているこちらの方が恐くなってくるくらいだ。
Moeは…というと、ちゃっかり車の影からムービーを撮影。

どれくらい経っただろうか…
クマの戦いが終わり、母グマが逃げるように森の中へと走り去っていった。

すると、改めて先ほどの女性と、その旦那さんが一緒に私たちの方へきて、
『本当にありがとう。私たちの車は、あっちの方に停めてあったのよ。』
と、遠くの車を指差し、礼を言ってきた。
    (旦那さんは、Moeがドアを閉めてしまったので、
    車には乗れず、私たちの車の陰に隠れていたらしい…Moe談)
『本当に恐かったね…』
などと、少し話した後、私たちは笑顔で別れた。

気持ち的には落ち着いてきていたが、
それでも私の手と足は、いつまでもガタガタと震えていた。
本当に恐かったのだ…。
今までに経験したことのない出来事(恐怖体験)だった。

          クマに遭遇した場合
          走ったりしてはいけません。
          動くモノに、反応しますから…。
          もちろん、近付きすぎる行為も危険です。
          お互いのために、適正な距離を保って観察しましょう。



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